測定機を実際に利用する前に理解しておきたい、“測定の基礎知識”について説明します。早く測定のエキスパートになるために、ぜひ読んでください。
測定を始めるにあたり、正確でより有効なデータを得るために心掛けたい点をまとめました。
測定は正確に | 経験を生かし正確に努めることが大切です。 |
あわてない | あわてると注意がおろそかになります。ステップを追ってダメ押しをするくらいに確認をしましょう。 |
観察力 | 周囲や測定結果に対して観察力や五感をフルに動員しましょう。 |
測定環境 | 騒音・気温・音響空間の状況には特に注意しましょう。 |
整理整頓 | かたづけは、測定者の心構えを映します。 |
データの整理 | 測定データを活かすために、整理しておきましょう。 |
良い音作りのための良い測定とはどんなものでしょうか。良い測定をするために重要なポイントをあげます。常に心に止めて向上に努めましょう。
目的 | 何を何のために測り、何を得たいのか |
モノ | 適した測定系を作る、接続や信号など |
対象 | 測定対象やポイントを決める |
条件 | 測定の条件設定・レベルなど |
正確 | 測定結果はどうか・データの意味や理由は推定できるか |
結果 | 測定データを活かすために、整理しておきましょう。 |
経験 | 次に何をするか・どのようにしたら良くなるか |
信号ごとの特徴を理解し、測定の目的に合った信号を選定しましょう。
音源 | 特徴 |
サイン波 | 歪感が無く清んだ音。聴感になじみやすく、耳でビリ付きなどの異常を見付けやすい。 |
サインスイープ | サイン波の周波数の変化を一定にしたサイン波。 滑らかに周波数を変化させながら測定することが出来るため、対象機器の周波数特性の細かい分析などに適している。 |
ピンクノイズ | 全帯域の成分が、スペアナで見たときにフラットになるノイズ。全帯域の成分が含まれるので、周波数特性をリアルタイムで見たいときに使用する。信号のピーク値が実効値に対し振幅で2倍程度あるので、飽和に注意する。 |
ホワイトノイズ | 全帯域にわたって、どこの周波数帯域を取っても、同じエネルギーを持っている。したがって、20Hz ~ 5kHz のバンドと5kHz ~ 10kHzのバンド幅のエネルギーがほぼ同じであるため、高域側程スピーカへの入力負荷が大きくなり、測定中にツイータを飛ばさないように注意が必要。 しかもノイズであるのでピンクノイズと同じように信号のピーク値が実効値に対し振幅で4倍程度あるため、さらに注意が必要。 |
TSP タイムストレッチドパルス | 単位時間当たり一定な周波数幅で周波数が変化するサイン波。インパルス応答測定においても高いS/N 比が得られる。 この信号はサイン波なので、ピーク値の振幅は実効値の1.4 倍、電力で2 倍にしかならない。ピークレベルの飽和への心配がこの分減る。しかし、単位時間当たりのパワーとしては、周波数の変化が直線的であるので、ホワイトノイズと変わりないことに注意する。 |
より良い結果を得るために、測定レベルによる影響を理解しましょう。
測定するときに、どのようなレベルで測定したらよいかを考えましょう。騒音(N) より信号(S) が小さければ、実際の音より大きな騒音のレベルを測定してしまいます。逆に、信号が大きすぎれば音が飽和してしまい、実際の特性ではなくつぶれた特性を測定することになります。測定する信号の内容によって大小が変化しますから、測る信号に見合う適切な信号のレンジで測定することが必要です。
測定可能な最大値と最小値の比をダイナミックレンジといいます。 AD/DA 変換器のビット数や内部計算の有効桁数に注意しながら、出来るだけ大きなダイナミックレンジを確保します。
実際の測定で、ダイナミックレンジを決定してしまうのは、その多くが周囲騒音や接続信号線に乗っている“雑音”です。騒音より低い信号では、測定しにくくなることは容易に分かるでしょう。実際の測定環境において、雑音レベルを予備測定しておいたり、測定レベルがふらつくようだったら雑音であることを疑って見る必要があります。
変換するサンプリング周波数によって、測定信号の上限周波数が決定されます。サンプリング周波数が44.1kHzまたは48kHzの場合は、上限周波数は約20kHz になります。これを超える周波数の信号と雑音は、計測値として出てこないことに留意してください。歪波形の分析において高調波歪を分析する際にも、高調波の次数とサンプリング周波数に応じて測定周波数の上限が決定されます。たとえば、サンプリング周波数が44.1kHzまたは48kHzの場合は、2 次高調波を測定する基本波は約10kHz まで、3 次高調波を測定する基本波は約7kHz までが測定限界になります。同様にサンプリング周波数が96kHzのときは、測定信号の上限周波数は44kHz、2次高調波の基本波は22kHzまで、3次高調波の基本波は約12kHzまでとなります。